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11.魔法使いの後輩

Auteur: 月山 歩
last update Date de publication: 2025-10-16 15:05:30

「ジャスミンさん、お久しぶり。」

「ポーラさん、お帰りなさいませ。」

 カレンが勉強しているあいだ、私は静かに自室で書き物をしていた。

 そこへ扉がノックされ、懐かしい声の主が姿を見せる。

 ポーラが、旅から戻ってきたのだ。

「久しぶりにゆっくり休めたわ、本当にありがとう。」

「お役に立てたなら良かったです。」

 ポーラは以前よりも少しふっくらとして、表情がだいぶ明るくなっていた。

 地元に帰ったことで、リラックスできたなら、私としても少し肩の荷が降りた気分だった。

 彼女は私がいない間、ずっとカレンを守ってくれたのだから。

「ジャスミンさん、お部屋移ったのね。」

「はい、カレン様が夜遅くまで、本を読んでとせがむことが増えまして、ワグナー様のご配慮で、こちらに移していただいたんです。」

 今は、カレンの部屋を挟むように私とポーラの部屋があり、向かい側がセオドア様の部屋になっている。

「ジャスミンさんがカレン様のお世話をしててくれて助かったわ。

 これで私も、交代で休みを取れるようになるもの。」

「そうですね。

 ポーラさんにはしっかりと休んでほしいです。」

「ありがとう。」

 ポーラは微笑みながら椅子に腰を下ろした。

 窓からの風がカーテンを揺らし、穏やかな午後の光が彼女の横顔を照らす。

「久しぶりの地元はいかがでしたか?」

「ええ、私には結婚は無理だけど、故郷の風は仲間達を思い出させたわ。」

「ポーラさん、結婚を諦めないでください。

 これから素敵な人に出会うかもしれませんし。」

「カレン様の毒味役である私が、結婚なんてできないし、ましてや子供なんて持てるはずがないわ。」

「もしポーラさんに家族ができたら、そのときは私が、毒味役を引き受けます。

 いいえ、今すぐでも代わります。」

「まさか、若いあなたにこれ以上負担をかけられないわ。」

「大丈夫です。

 私はカレン様を心からお守りしたいんです。」

 ポーラは少し目を細め、静かにうなずいた。

「それについては、後々考えて行きましょう。」

「分かりました。」

 本当は、彼女にこれ以上その役を続けてほしくはない。

 だが、私がカレンの母だと明かせない以上、説得の言葉を飲み込むしかなかった。

「カレン、ご機嫌よう。」

 カレンと廊下を歩いている時、背後から声をかけられ、ジャスミンとカレンは振り返った。

「ユーリーさん、こんにちは。」

「上手に挨拶できたわね。」

 夜の闇のような紫の瞳で微笑むのは、前世で私の後輩に当たるユーリーだった。

 彼女は努力家で、当時私の次に絶大な力を誇る魔法使いで、私は幾多の魔法を指導していたものだ。

 でも何故この邸に彼女がいるの?

 まさかこの邸で、こんなに早く再び会うことになるとは思わなかった。

 ユーリーの視線が、カレンと手をつないでいる私に注がれる。

「あら、新しいナニーなの?」

「はい、最近こちらでお世話になっております、ジャスミンと申します。

 よろしくお願いします。」

「ふーん、若いナニーね。」

 ユーリーの目が、私の頭のてっぺんから足の先までなぞるが、今の私はかつての姿ではないし、魔力もない。

 だから当然、彼女が気づくこともなかった。

「まあ、いいわ。」

 それだけ言い残して、ユーリーは通り過ぎていく。

 身を隠しているから、当然話しかけることなどできないが、本当はたくさん聞きたいことがあった。

 私がいなくなってから、教会のカウエン神父様や他の方達はどうしているか気になった。

 私がいない分、みんなの負担は増えだろうし、後輩達は無事だろうか?

 夜になり、ポーラが片付けの合間に、他の者に聞こえないように小声で囁く。

「お疲れ様、今日ユーリー様とお会いしたそうね。」 

「はい、ご挨拶させていただきました。」

「あの人はジュリア様の後輩に当たる魔法使いの方よ。」

「そうなんですね、今でも親交があるんですね。」

「形式上は教会からのお客様ってことになっているけれど、あの人の狙いはセオドア様よ。

 ジュリア様亡き後、誰よりも早く彼を狙い出したわ。」

「えっ?」

「表向きは神父様に頼まれて、ジュリア様の忘形見であるカレン様を心配して訪ねている風を装っているけれど、あの人の目的は他の令嬢達と同じで、セオドア様なの。

 だから、セオドア様がいない時には、全く寄りつかないわ。」

「そうなんですね。

 確かに、カレン様に少しだけ声をかけていらしたけれど、彼女に会いに来た感じではなかったです。」

「そう言うことよ。

 ジュリア様がいらした時は、そんなそぶりを全く見せなかったけれど、今は違うわ。

 そのことを教会も知っているけれど、咎めることなく、あの人の好きにさせてるの。

 だって、カレン様が魔力を持っている以上、いずれ魔法使いになってもらわないと困るから、ブライトン侯爵家を離したくないのよ。」

「なるほど。」

「ユーリー様は頻回にセオドア様を訪ねては、カレン様の母親になり、彼女を育てるのは魔法使いである自分が相応しいと説得しているわ。」

「魔法を教えるためですね。」

「違うわ。

 セオドア様の妻になりたいからよ。

 カレン様を第一に考えれない人が、ジュリア様の代わりになるなんて、絶対にダメよ。」

「それはそうですね。」

 ポーラのいうことはもっともだわ。

 彼女ほどの魔法使いならば、カレンの指導者として適しているけれど、母親になるなら、愛を持ってカレンに接してほしい。

 ユーリーがこの邸に通う理由が、カレンのためでも、教会のためでもなく、セオドア様に会いたいからというのには、がっかりだわ。

 そう考えると、私に毒を盛ったのは、ユーリーだという可能性も出てくる。

 でも、本当に私を亡き者にしてまで、セオドア様がほしかったのかしら?

 だって私がいなくなったら、それだけ一緒に働く者として、彼女の負担が増えるのは目に見えている。

 本人だって、多くのものを私のせいで失っただろう。

 身体が壊れる寸前まで魔力を使わなければならない場面があっただろうし、仲間の命だって失ったかもしれない。

 どんな犠牲を払ってもほしいと思わなければ、最後の一歩を踏み出せなかったはずだ。

 それに、私達は深い信頼関係で結ばれていたつもりだ。

 もし、彼女が犯人ならば、知らないままでいた方が、まだマシだと思うだろう。

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